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『グリーンマイル』に見えるアメリカの政治的イデオロギー【ヒロキネマコラム第5回】

『グリーンマイル』(1999年、アメリカ)

 『グリーンマイル』は全体的には看守と死刑囚の死刑執行までの日常を描いたものだが、刑の執行を通じて生と死を問う重厚なテーマである一方で、ハリウッド映画の原則とも言える正義による制裁というテーマをも孕んでいる。この映画ではジョン・コーフィ(マイケル・クラーク・ダンカン)という神の子のような存在が、善人を救い、悪人を裁く。アメリカの政治的イデオロギーを表現するハリウッド映画の原則とも言える正義による制裁という原理が巧妙な形で映画に含まれているのだ。



 一般的な映画の照明の使い方として、明瞭な人物に明るい光を照らし、暗黒界のフィクサーのような悪人には暗く映したりする。この映画では照明の明暗が非常に解り易い使い方をされている。例えば、主人公の看守であるポール(トム・ハンクス)の持病である尿路感染症を治す場面では、刑務所の電球が灯されて一気に明るくなる。そしてコーフィが吐き出す息から黒いコバエのような群れが出てくる。




 
 またネズミを助ける場面でも明るい光が作られる。この場面では親が子に命を吹き込むようにも見える。ここでも息からコバエの群れが出てくる。



 

 刑務所長の妻の喉を治療する場面でも明るい光が利用されている。ここでは後に”ある悪人”を裁く為に、黒いコバエはまだ吐き出さない。







 
 善人を救う場面で明るい照明が使われているのに対し、悪人を裁く場面では明るくする必要がないから、暗く表現している。先で述べた"悪人"である死刑囚のウォートン(サム・ロックウェル)を裁く為に看守のパーシー(ダグ・ハッチソン)にコバエを口で移す場面だが、ここではコーフィが怪物の如く、パーシーに喰らいつくように描かれている。






 
 
 そのシーンの直後、ウォートンはパーシーに撃ち殺されるが、ここでは感情を出来る限り省くために照明を薄暗くしている。根っからの悪人に対し慈悲など必要ないからだ。



 なお興味深いのが曲がりなりにも看守であるパーシーがウォートンを撃ち殺した後、コバエの群れを吐き出す所である。パーシーはこの映画では同情し辛いキャラクターではあるものの、看守としての仕事は行ってきている訳である。なのでパーシーまで悪人として裁く必要がこの映画では無いのだ。最終的に精神病院送りにはなっているが。
 
 
 テロとの戦いと排外主義を掲げるアメリカにとって、アメリカに歯向かう敵はどんな形であれ全てテロリストであり、排除すべき存在だ。この映画ではその政治的イデオロギーを表すべく、無実のコーフィが神がかり的な力を持った正義の番人として、また、コバエの群れが社会に蔓延する悪として描かれている。

 とりあえずとしてここまで挙げてきたポイントが、この映画のハリウッド映画の原則を踏襲している部分である。


 

 
 ところで、この映画の個人的に良かった演出を挙げておこう。死刑囚のデル(マイケル・ジェッター)がパーシーの怠慢によって悲惨な死を遂げてしまうシークエンスにおける、雷の轟音とショットの繋ぎ合わせによる演出が、より一層恐ろしい死刑の執行を見せている。

 よく、緊張するシチュエーションでは敢て静かにしたり(例えば筆記試験開始までの静かさはかえって緊張が高まってくる)するだろうが、ここでの刑の執行までのドキドキする演出では落雷の光と音を交えることによって、緊迫感を高める効果がある。音も使い方によってはこのように緊張感を高める効果があるのだ。


 ここでの死刑の見物人は被害者とただの野次馬だろう。被害者は死刑囚に対する怒りや恨みで来ている(このショットを見ても落雷の光によって怒りや恨みの感情が一層際立っている)が、野次馬は単に死刑見物で来ているに過ぎない。

 
 パーシーがスポンジを挟まなかったという行為はデルの悲惨な死につながる。デルが焼かれるという予想外の光景を目の当たりにしてしまった被害者と野次馬は驚きと恐怖におののいて、一斉に退場しようとする。




 このショットはパーシーが自分の過ちを後悔していることを表すものだ。


 ポールがパーシーを掴み、これが死ぬということだと言わんばかりにデルの死にざまを見せようとする。このシークエンスは、死ぬとはどういうことなのかを普段死とは無縁な我々に対する真なる問いかけとも取れる、重要な場面になる。
 




 『グリーンマイル』のような映画を観ると、生きることとはなにか、死ぬこととはなにか、我々が普段から真剣に考えていないことを問いただされている風に感じる。この映画における台詞である”人間は皆、自分のグリーンマイルを歩いている”はその点でとても深い意味をもつ。人はみな早かれ遅かれいつか必ず死ぬが、人生はグリーンマイルを歩くこと、つまり険しい道でも歩いていかなくてはならないという意味もある。この映画は是枝裕和の『ワンダフルライフ』のような既存の死生観を問い直す作品や、被害者との対話を描いた作品ではなく、方向性としてはどこまでもハリウッド映画の原則に従ったものである。



記事執筆者 北口 裕貴
フリーランスライターとして同好会向けに映画、自動車、社会福祉、野球など幅広く記事を書いています。
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